マクドナルド喧噪-ベーコンポテトパイを追え-
去る十月一日の話だ。マクドナルドに行ったら、カウンターテーブルの上のメニュー表が消えていたのである。取り扱い全商品と値段が掲載されている、あのメニュー表だ。
「メニュー表がない」と店員に伝えると、今日から置いてないので店内に貼っているポスターか、カウンター内、店員の背後上部に載っているメニューを見て選んでくれとの事。しかし上部メニューにはベーコンポテトパイが載っていない。私はベーコンポテトパイの置いてないマック店舗を腹の底から嫌う性質であるからして、ややおかんむりモードに突入しかけた。ぽっちゃり風俗に入ったらスーパーフェザー級程度のガリが出て来て「私って凄い太っちゃったんですぅ」とか抜かした時に脳内に湧き出るあの怒りの感情である。 しかし、ベーコンポテトパイはあったのだ。
「ベーコンポテトパイは販売期間終了ですか?」 「いえ売ってます」 何と!一瞬にして機嫌が治る私。しかし解せない。 では、である。何故上部メニューのどこにも「ベーコンポテトパイ」と書かれていないのだろうか。時々商売の神は我々庶民には理解し辛い采配をなさる。手元のメニュー表が上部に移ったのなら、それを見ながらメニューを決める事になるのが道理のはずだ。そこに全メニューが掲載されていなければ時間短縮も糞も吟味不可、選びようがないではないか。 勿論掲載されているメニューから選べば良いわけだが、モンキーパンチの代表作を選べと言われてもルパン三世しか選びようがないように、上部メニューに書かれている限られた「おすすめ」商品から選ぶしかない。 マクドナルドの公式見解によるとテーブルメニューを廃止したのはスピードアップの為だという。 確かに長い行列のレジで並んで自分の番になってからメニューを読みああでもないこうでもないと迷われると非常に後ろに並んでいるものからすると迷惑だ。レジにおける接客時間がサーティミニッツ、すなわち三十秒短縮されると五%の利益が出るという試算もマクドナルド内部ではあると言う。 しかしそもそもレジで並んでいる間に自分の注文も決めていないような人種は、テーブルにメニュー表があろうがなかろうがノロマな事に変わりはないだろう。 そして問題は何より、この公式見解は上部メニューに全部の商品(と値段)が書かれていない理由にはなっていない事である。 一応店内のポスターに全商品と価格が書かれたポスターはあるという。私は気付かなかったが。気付かなかったのと言うのは要するに、気付かれないような感じで壁にそっと貼られているからである。 「つまるところ一番目に付くレジ後部、店員背後の上部メニューに単価率の高い商品(バリューセット等)だけ提示して、それを買わせようっていうセコくて頭の悪い上層部の思い付きそうな魂胆ですよ」 2ちゃんねるに書かれていたレスだが、全面同意である。限りなく低い原価と人件費で高い商品を売りつける、現代ビジネスの最先端を爆走するボッタクリ原価商売の帝王マクドナルドらしいやり方だ。 思うに、セットにはジュースが付いている。これが利益を生み出す源泉なのだろう。 今は知らないが十年ぐらい前は、私の知っている牛乳屋は牛乳もコーヒー牛乳も加工乳も瓶ジュースも一律百二十円で売っていたが、原価は宅配専用牛乳で五十二円、普通牛乳で四十七円、コーヒー牛乳で三十八円と、えらく差があったものだった。その為その店のおっさんは牛乳屋でありながらコーヒー牛乳をお客さんに強く勧めていたものである。 一日一個の契約だと、一ヶ月三十個で百二十円だから三千六百円の売り上げだ。取っている商品が宅配牛乳とコーヒー牛乳で仕入れ値は十四円違う。掛ける三十で四百二十円。同じ労力で四百二十円も儲けに違いが出るわけである。メーカーはカルダスやおいしい牛乳を卸したいが現場は決してそうではない。メーカーはより高く儲けたいし牛乳屋も同じである。 その結果如何にして効率よくお客様に儲かる商品を売りつけられるかがキモであり、本当は決して羽振りが悪いわけでも貧乏なわけでもないのだが、如何に「頑張っているけど生活が苦しくて貧乏な牛乳屋さん」のフリをして同情を買い、奥様方から注文を奪うかが営業のコツだ。お客様より金持ちである事を隠すために店先にはボロい配達用ホンダ・アクティを置きながら、五分離れた月極駐車場にベンツを停めているお店もある。「可哀想だから一本取ってあげるわ」なんて契約してくれる奥様方もいる。可哀想なのはいい人を気取って勝手に騙されてるお宅のおつむだとは、口が裂けても牛乳屋さんは言わないが。 そんなわけで話は逸れたが、要するに上部メニューに書かれていない商品こそが、あんまりマクドナルド的には売りたくない商品だと言う事だ。百円バーガーやベーコンポテトパイなんかがそうなのだろう。値段の高いダブルクォーターパウンドよりも本当はクォーターパウンドの方を売りたいのだともわかってくる。 そのままに、あるがままに、物事を受け入れ、享受する、心優しき庶民は食い物にされるのだ。 メニューにベーコンポテトパイがない、ああ、ベーコンポテトパイはなくなってしまったのだなあ、じゃあ仕方ない、上のメニューに書かれている商品でも注文するかと、心優しい私などは思わず騙されてしまう所だった。そうはさせるかと言う話だ。 正しい眼(まなこ)の持ち主であれば真に暖かい心を持つぽちゃさんに巡り会えるように、マクドナルドのメニュー表一つからでも様々な真実が見えてくる。 私はマクドナルドの商品は好きだが日本マクドナルドという会社自体には何の思い入れもない。 下らない策を弄してベーコンポテトパイを隠しにかかるなど、むしろ敵だ。 すべての民が立ち上がらなければならない。私たちのマクドナルドを、 ゴミ経営者の手から取り戻すために。
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