私はストーカーではない。ちょっとぽちゃさんを大好きなだけだ。
本当に涼しくなった。素晴らしい事だ。まだ数回に渡る残暑のぶり返しがあって暑い日もあると思うが、急速に気温も低下、一ヶ月もすると「さみーよ、夏懐かしいよ」なんて震え出しているのだろう。じゃあ長い目で見ると素晴らしい事じゃないな。しかし一ヶ月後の自分がどう苦しんでいても今の私には関係ない。とにかく猛暑が過ぎ去りほっと一安心している所だ。 やはり世の大多数のぽちゃさんが暑さを苦手としている。そんな夏という季節を無条件に愛する必要はない。 自分でも何を訴えたいのか今一つわかりかねる文章だが、まあそういう事だ。要するに真夏は暑過ぎて生きて行くのに厳し過ぎる環境だと私は思う。涼しくなって良かった良かったという話である。 そんな中うちの会社のビルに努めている女性社員が一人ストーカーに付け回されていて困っているという話を聞いた。そんな話が何故我が社に入って来たのかというと、要するにうちの会社は施設管理から整備、警備、保安、清掃を一括して請け負うメンテナンス事業会社であり、おかしな人物の出入りを規制する立場にあるからだ。とはいっても犯罪行為に関しては最終的に警察がやるべき仕事であり、そもそも酔っ払いや不審者の対応が本来の業務というわけでもない(保安担当者はまあそれが仕事だが)。それ故に、あんまり困った犯罪者なら、交番が近くにあるのでそちらに行って欲しいと思う所でもある。
何せストーカー心中事件を起こしてしまった馬鹿を買っていた警察なので、今なら「ストーカーされています」と訴えればかなり良い対応を受けられるはずだ。しかし話を聞いてみると「まだ直接的被害は受けていないけど、とにかくしつこい。ギリギリストーカー以前ぐらいのレベル」なのだという。だったら直接被害を受けてから来て貰いたい所だが、そこは社内の多大なる信頼を受けている弊社である。まだそれ以前の段階であっても相談を受けるだけの信頼を得ているわけであった(注:かなり心にもない嘘が文中に含まれていますがスルーして下さい)。 これでそのストーカーの被疑を受けているオッサンを見たが、まあこれがむさ苦しくも暑苦しい形相だ事。取引先の人間なので無下に追い出すわけにもいかないのだが、これでは「あの人キモイ、入館出来ないようにして欲しい」という届け出が出るのも無理がないと思う。そして当該の女性でなくても、女の子が通りかかるとジロジロ見ている。成る程確かにこれは変な人だ。これでちょっと気に入った女の子がいると必要以上に接近して来るのだろう。女性の敵と断言してもいいだろう。 と、ここまで書いて思ったが、このオヤジと通り掛かりのぽちゃさんを発見した時の私とどう違うのだろうか。 特にこの夏私はクーラーもろくに利いていない場所で作業をしている時間が多く、フラフラになりながら社員食堂なんかに現れるわけだ。そこでぽっちゃりOLなんかを発見したら、休憩時間中その子のいる方角に視線を這わせているわけである。 恐ろしい話だが表現の仕方が違うだけでこのオヤジと私は全く同じタイプの人種かも知れない。私が壮巌かつ雄大なバロック建築物だとしたらこのオッサンはプレハブの作業用掘っ立て小屋ぐらいの差はあるわけだが(あくまでも私の自己申告である)、女の子が好きでそっちばっかり見ているという結果においては何ら変わりはない。バロックだろうがなんだろうが屋根があれば雨を防ぎ、中で暮らせられる事と同じである。 あんな額に油をギラギラ輝かせて女体を求める男と同じでは私も困ってしまう。深く反省しなければならない所だ。しかし暑さも一段落ついたし、これからはもう少し冷静沈着で余裕あるジェントルマンとして振舞えるはずだ。ぽちゃさんを目線で追うにしてももう少し優雅に、スマートに目玉を滑らせねばならない。はっきりいって男など、本性の部分ではこのオヤジもあのオヤジもそこの若者も大して変わらないものである。如何にしてクールに仮面を被せるか、気を付けて生きて行きたい。 そんな感じでのほほんと仕事をしている私だが、とうとう昨日、同僚が一人クビを宣告された。私より一回り干支が上だからもういいオッサンである。しかし仕事をリタイアするには若過ぎる。奥さんもいるし子供も高校生だ。まことにかわいそうな話だ、といいたい所だが......正直あまりかわいそうではない。だって仕事を覚えようとしないんですもの。そして間違いを一切認めない男でもある。彼はバブル時代に公務員になり、何らかの理由で人員整理を受けた人だった。正直に書くと、公務員を十年以上やって使い物にならない人間は民間ではこれっぽっちの戦力にもならないというのが本音である。もう少し誤解を恐れず書くと、「普通の公務員」でも通用しない。それは公務員と民間企業のサラリーマンで求められている役割が全く違うものだから当然といえば当然なのだが...親方日の丸が続くと思って生きて来たぶら下がり人類では結局どの業界でも通用しないという事なのだろう。実際我が社の人事は彼以降公務員経験者を採用しないように内規を変えた。それ程までの男だったという事である。彼一人の所業で我が社への元公務員の門は閉ざされた。ある意味罪は重い(まあ普通の公務員だったら我が社には絶対入りたくないと思うが。何せ給料が低くて将来性もない)。彼は結局、通常の新人が五日でクリアする箇所を乗り越えられずに終ってしまった。それはいい、人には向き不向きがある。私だって一週間で辞めた会社がある。でもこの先ずっとクビを宣告されない限りは居続けるつもりだったと聞いた。だったら覚える努力を何故しないという事である。あなた以外にも物覚えが悪い社員なんていくらでもいる。でもそれならノートにメモを取るとか聞き返すとか、いくらでも手段はあったではないか、そんな風に問い詰めたくも思ったが止めた。もう退職は確定したからである。冷たい話だが、同僚で無くなり友人でもない以上、そんな事を伝える意味はないのだった。 私だって何時同じ事になるかわからない。少しのミスで追い出される可能性だってあるのだ。だから他人の事で一々気に病んでいられないというのが本当の所でもある。 大好きなぽちゃさんに「変な人がいるんです。ずっと私を見ているんです」なんていわれてしまうかも知れない。我が社は小さな企業だからして「窓際」なるポストは無い。使えないと思ったらクビを宣告されるだけである。そうでなければパワハラだ。中小企業なんてそんなものである。他人事ではない。 ところでこの同僚も辞めさせられる理由が十ほど並び立てられていたが、そのうちの一つはストーカー行為だった。これは結局誤解だったのだが、作業着を着ている人間が仕事中に社内で不審者と間違われるなんてやっぱり有り得ない。おかしいとしかいいようがない。でも私だって有り得るのだ。確かに私は仕事中だろうが通り掛かりのぽちゃさんをずっと見ている。 恐るべきは男の性である。 注意しなければならない。私もまだ病院への通院を終えておらず、完全体とはいえない。 ぽちゃさん見てたら会社クビ。 そんな切なすぎる人生はお断りしたいというのが本音である。
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