プロ、自転車屋
通勤中スクーターのタイヤがプシュンと切れてヨロヨロの状態で会社に辿り着いたのだ。そんなわけで会社から近所のバイクショップに電話して修理を頼もうかと思ったわけである。
ピッポッパ、プルルルル......ガチャ。 「いつも有り難うございます、誠に勝手ながら当社はお盆休みを頂いております。16日に営業再開致します。ご用件の方は留守番電話にメッセージをお吹き込み下さい」 ガビョーン。
僅か徒歩8分のお店が使えないとは.. 仕方がないので1km先のお店に電話してみたのである。今度はお店の人が出た!しかし「すんませんお盆休みです」と、同じように呆気なく断られてしまった次第である。 君はぽちゃさんに告白された時、お盆を理由にお付き合いを断るか? 全く有り得ない話である。そんなわけで更にそのまたちょっと遠くにある専門店に電話したら「プレミアム会員じゃないと修理は承りません、スミマセン」と断られ、また別の出張業者に電話して見積もりを取ったら「出張費用2万円です」と足元を見られたわけである。 そりゃちょっとお前ら世知辛すぎるぜこの世の中。と言う事でようやく価格もリーズナブルでお盆休みでないお店を見付けた時の私の喜びは皆様容易にご理解頂けるだろう。だが問題があった。距離である。そのお店はよくある街の自転車屋さんのようにバイクを取りに来てはくれないので、私がお店のガレージまで引きずって持って行かねばならなかったのである。山一つ越えた3km先のバイクショップに。 「むおおおおおおおおおお、ふうう」 体力がない事にかけてはプロヘッショナルである私だが、汗だくになりながら仕事後パンクでまともに直進しないスクーターを一時間近くかけて持って行ったわけなのだ。いい運動になった。と言うより苦しくて倒れそう。 何を隠そう尻を隠そう私は運動が大っ嫌いだ。他人が運動している姿を見るのはいい。しかし自分が動く事はとても嫌だ。私は見る側の人間である。真夏の明治神宮球場、横浜ベイスターズの石川遊撃手の荒れた守備を冷房の効いた部屋でPCモニタ越しに鑑賞しながら「おいおい何やってんだよ石川、だらしないなあ」と嘆息するのが向いている。 職場で3Fまで階段で昇っていく事すら嫌だ。断然エレベータ派である。そんな私に丘陵を越え重いスクーターを引きずって移動せよなどと、よくもまあ神は大変な試練を与え給うものである。ただでさえ仕事で汗だくだというのに。ふざけなすなと強く反発したい。 夏はかわいいぽちゃさんを傍らに従えて冷房の効いた車でドライブし、そのまま冷房の効いたラブホで幸福の一時を過ごすというのが正しい過ごし方のはずだ。ドストエフスキーじゃあるまいし何故必要以上の労働を自らに課す必要があるのか。こんなのは私の思い描いていた理想の夏とは違う。ノリピーの実像とイメージぐらい違う。ボストンクラブとホストクラブぐらい違う。私は今、怒りに燃えている。 とまあ、そんな感じで想定外の体力浪費により涙目状態な私である。ヤケクソでタイヤ交換の他に電球交換、オイル交換もやってしまったので1万3千円も失ってしまったし、ダメージは殊の外(ことのほか)重い。ウエスタンラリアットをまともに食らった挙げ句受け身を取り損なって後頭部まで痛打してしまった勢いだ。それもこれもみんな夏の責任だ。 夏の奴が私を苦しめようとしている。 しかし私は負けない。 真の果実足るぽちゃさんを求め、如何なる妨害にもめげず愛を追求するのだ。 クーラーの効いた部屋でイチャイチャ出来れば勝利である。是非とも掴み取りたい。 とにかく汗だくで気持ち悪かったのだ。 インドアを何よりも好む私に労働を強要した「運命」を許さない。 動かず幸せを奪い取る。 私の究極の目標はそれだ。
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