ベトナムに新幹線を
ベトナムに新幹線開通という噂が流れている。ハノイとホーチ・ミンという南北ベトナムの二大都市は現在在来線で29時間かかり、ぶっちゃけた話利便性が全く無い。そのため日本式の新幹線を導入して10時間前後で直結させるという計画だ。
日本式の新幹線(SHINKANSEN)というと台湾では既に日欧折衷の形ではあるが台北-高雄間345kmを90分で結ぶ台湾高速鉄道(台湾新幹線)が運航を開始しており、ベトナムでも採用されれば更に日本の新幹線の世界進出が加速する事となる。 新幹線以外の高速鉄道というとフランスのTGVやドイツのICEが存在するがなんのなんのだ。我が日本国の新幹線が最も素晴らしい。
(画像は台湾高鐵700T型車両) これは正直私の愛国心が言わせる言葉であり、実の所、特に根拠はないのだが、やはりベトナム人でもそう思っている人は多いらしく、日本から働きかけたわけでもないのに「作るならシンカンセンがいい。シンカンセンが欲しい」とベトナム側からご指名を受けているわけである。嬉しい話ではございませんか。 そう、この計画は日本サイドから売り込みをかけたわけでもなく、ベトナムの側から(勝手に)発表された提案なのだ。 何のモーションもかけてないのに勝手にぽちゃさんからラブレターを貰う気分と言える。そこまで想ってくれているのなら一晩甘いラブタッチをかましてあげるのが男というものでは無かろうか。惚れられるとはとても嬉しい話である。 しかしながら懸念もある。ハノイとホーチミン間1630kmを10時間かけるというのは効率としてどうだろう。平均速度163kmである。日本で言うと地方の在来線特急よりやや速いかな、と言う程度の速度だ。 もっとも、例えば日本の「のぞみ」の速度で走行したとしても、である。東京-新大阪間515.4km(営業キロ数だと552.6kmキロ)がのぞみで2時間36分なので約三倍強で8時間と言ったところだ。やはりせいぜい10時間が8時間になる程度の短縮にしかならないだろう。しかしながら8時間9時間という時間は非常に長い。飛行機で言うと成田からシドニーへ飛べる時間だ。寝台特急ならともかくただの場所移動でこれだけの時間を過ごすのはきついだろう。お尻が痛くなりそうだ。 ベトナムではまだまだ庶民は飛行機を利用しない。 しかしハノイ-ホーチミン間はジェット機ならば恐らく100分かかるかかからないかという程度の時間で飛べる距離であり、将来的に運賃が安くなったりベトナム人の所得が上がって飛行機利用が当たり前になったりしたら誰も8時間9時間かかる鉄道を利用しようとは思わなくなるだろう。 鉄道から飛行機へ、と言う流れが世界の趨勢である(アメリカなどではもう完璧に飛行機の勝利が確定している)。つまり新幹線路を敷くはいいが、将来性が保証されているとは言い切れない状況なのである。 日本の新幹線も東京博多間で通して利用する人は少数派となっている。 たいがいの人は飛行機を使う。それでも中間に横浜、静岡、名古屋、京都、大阪、神戸、岡山、広島、北九州と言った大都市を多数抱えている事によって新幹線の利用率は保持されている。東京から名古屋へ、或いは広島から大阪へといった中距離都市間移動に関しては絶対的に新幹線は強い。飛行機など相手にもしない圧倒的な強さを誇っている。 ところがハノイとホーチミンの間にはそれ程までの大都市が存在しない。ニャチャンが人口約50万、ダナンが75万、フエ33万、ホイアン9万人と言ったところだ(170万人都市のハイフォンはハノイ郊外、120万人都市カントーはホーチミン郊外で、ハノイ-ホーチミンの中間ではない)。要するにベトナム新幹線が開業したとしてもハノイからホーチミンへ直接移動したいと考える以外の層を取り込めないと言う事だ。こうなるともしかして飛行機が一般的になってしまった場合(そうなる確率は高い)、ベトナム新幹線は金を食うだけで利益を生まない困った存在になる可能性が高い。それこそリニアモーターカーでもなければ飛行機と戦える利便性、速度は手に入れられないわけである。 しかしぽちゃさんからモーションをくれているのに無視する男がいるかと言うとそうはいないように、ベトナムサイドから「日本の新幹線が欲しいなあ、採用したいなあ」と言ってくれている限りは協力してあげるのが日本男児の心意気というものでは無かろうか。 国際市場の観点で見ると新幹線は微妙な位置にある。 日本の新幹線は騒音対策や地震対策、過酷なダイヤ、輸送条件をクリアする優秀な鉄道システムではあるが、世界でそんな条件付けの厳しい高速鉄道を必要としている地帯はそう多くはない。そのためコスト的に廉価となるTGVを採用する国が多い。「優秀な商品である事は知っていますがそんな高級品はうちの国には必要ありませんよ」となってしまうわけである。 それでも1964年の開業以来半世紀近く大量移動及び高速移動という二つの基本事項を重大事故もなくこなし続けてきた「新幹線」は日本の技術と生活の融合を代表する一大ブランドえある。アメリカやロシア、中国、ブラジルと言ったマーケットが注目している存在なのだ。ここはベトナム高速鉄道という新しいプロジェクトで世界にリードする新幹線の優位性をアピールする好機ではないのか?そう考える次第なのである。 自分に惚れてくれるぽちゃさんがいたらその愛に応える努力をするのが男の姿と言える。日本もベトナムに応えるべきだ。 やがていつの日か、日本の新幹線が世界中に張り巡らされる日が来るかも知れない。 まずはアジアである。ベトナムは、すぐそこだ。
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