週刊アスキー増刊号フリーソフト特集を読んで(前編)
週刊アスキー増刊号がキヨスクに売られたので買ってきた。今回はフリーソフト特集である。お勧めフリーソフトが収録されているDVD-ROMも付録で付いている。なんだか懐かしい感覚だ。
昔のパソコン雑誌はみんなこんな風にCD-ROMが付随していた。最近でこそパソコンを買うとすぐにネットに繋げてSNSやら動画サイトやら2ちゃんねるやらに繋げてそのまま誰でも楽しめるようになったPCの世界だが、十五年ぐらい前はそこまで気楽でもなかった。そもそもネットに繋ぐだけでダイヤルアップで多額の料金を支払わねばならず、しかもその速度は14.4kbps(イッチョンチョン)だった。これでも堂々とメーカーは「高速モデム」と銘打ち、買う方の我々も「14.4kbpsだから高速だな」と納得していたのである。ほんのちょっと昔まで、そんな世界が現実に存在していたのだ。
今ではDoCoMo経由の無線回線ですら下り最大75Mbpsで通信出来る規格が現れているぐらいである。有線だと平気な顔をして「1000Mbps」だとか言っている。速い。まるで柏原竜二だ。それでもこれだって数年もしたら大した速度ではなくなり、十数年したら過去の遺産級な亀規格となってしまうのだろう。あのISDNが五年も持たずに使い道のない低速回線に落ちぶれてしまったように。実際ISDNなんかではネットの海に落ちている一時間程度のぽちゃさんアダルト動画をダウンロードするのにも一日、二日かかってしまう。今更お呼びではないのだ。 それでもISDNが実用化された頃の期待感は物凄いものがあった。まあ9800bpsとか14.4kbpsで「高速」とか言われていた時代に64kbpsの速度を謳ったのである。確かに当時はとんでもない速度に思えたのだ。 パソコンでエロ画像を見る事は可能であったが、エロ動画を見るなんて考えにも及ばぬ状況だった。見られたとしても精々十秒かそこらの劣悪な動画である。DVDが世に出てパソコンでも動画が普通に見られる事が出来る時代が来るだろうと予測は出来ても、それが何年後の話になるのかは全く想像も付かなかった。 そんな時代、フリーソフトを使いこなす事には特別な意味があった(フー、やっとフリーソフトに話が戻ったぜ)。フリーソフト一つ使えないようではパソコンを弄る資格すらない。そんな思い上がった勘違いに埋もれていた青年たちも多かった。カッコイイ車とバッシュさえ持っていればぽちゃさんにモテモテになれると信じていたバブル的感覚である。思えば皆若かった。しかし実際問題として、フリーソフトの一つも使えなければパソコンを使いこなせていると言えない時代があったのは間違いない事実だった思う。 私の場合思い出すのはWindows以前の時代に圧倒的な支持を得たFILMTNである。これは便利だった。めちゃくちゃ便利だった。私は余り頭が良い方の人間ではなかったので、初めて学校でコンピュータに触れた頃DOSのコマンドラインが何を意味するものか全く分かっていなかった。DOSはコマンドラインに命令を打ち込む事によって起動するシステムなのだから、コマンドラインが何を意味するか分かっていないと言う事はDOSを全く使えない、理解していないという意味に他ならず、ABCDEFGのアルファベットを覚えられなかった勉強嫌いの中学生の如く、そこで全てのコンピュータに関する知識の蓄積が潰えてしまう所だった。 ここで何とかDOSSHELLを覚え、各ファイルとコマンドの関係が視覚的に、朧気(おぼろげ)ながら、少しずつ理解出来てきた私だったが、DOSSHELLなんか相手にならないわかりやすさと使いやすさで衝撃を与えたのがFDであり、FILMTNだった。私はFDの前にFILMTNと出会ったので、正直FDには若干の使いにくさを感じてはいたが、FDにはオリジナルの素晴らしさがある。FDがあったからこそFILMTNも生まれた。その上で私はFILMTNではじめてコンピュータと真正面から向かい合う事が出来るようになった気がしてならない。PC98シリーズのAドライブにインストールしてあるMS-DOSのFILMTNからBドライブのWindows95を弄くってしまいファイル名が短く書き換えられてしまった、などの失敗も思い出すが、WindowsのファイルもFILMTNで操作したくなるぐらい使い易いファイラーだったと言う事である。 そしてLHA!「ラー」とか呼ばれていたアイツである。静岡弁の「らー」とは違う。 「ラー」というのは開発者がそう呼ばせたかったという話だが、まああんまりその言い方は普及せず普通に「エルエッチエー」「エルエイチエー」と呼ばれていた記憶がある。しかし呼び方がどうのこうの言う以前の問題として、LHAは普及した。フロッピーにデータを纏めるために。同系統のファイルをわかりやすく揃えるために。家族に分からないようにエロ画像を圧縮(偽装)するために。データによっては圧縮したはずが逆にサイズが大きくなっちゃうLHAがみんな好きだった。 だいたい私の世代だとそんな所がフリーソフトとの出会いという所だろうか。やっぱりフリーソフトというのは便利なものである。そもそも同じ程度の機能を有するのに片方が優良で片方が無料であれば、無料が勝つというのが世間様の常識だ。私もお金を持っていない事にかけてはなかなかの男なので、同じ意見である。「あなたの事が好きです。私を抱いて下さい」と言うぽちゃさんと「あなたの事が好きです。お金を払えば私を抱いてIIですよ」と言うぽちゃさんがいたらどっちが素晴らしいぽちゃさんだろうか。考える必要はないだろう。 それでもあまりのWindows標準付随IMEのうんこさ加減に我慢出来なくなってわざわざジャストシステムの一太郎2007を購入してしまったなどの例外もないわけではないが、基本的には能力が同等なら無料は有料に秀でる。優良販売に拘ったNetscapeが今や影も形もなくなってしまった事実も、それに準ずるものである。 さてそんなフリーソフトだが、最近はあまり意識しなくなってしまった。まあ全く使っていないわけではないのだが、正直Windowsのシステムもかなり進化して使い易くなった。そんなに意識しなくても絶対的な不自由感は感じない。そんなところである。 それでもやはりアスキー増刊号を読んでいると「やっぱりあると便利だなあ」と感じる次第である。次回は幾つかのフリーソフトを実際にインストールしてみて、2011年現在のフリーソフト事情を実感してみたいと思う。
(この項続く)
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