球児たちの咆哮
高校野球たけなわなのである。私も何度か甲子園球場に夏の大会を観戦しに行ったものだが、呆れ果てるほど暑い。
バターン死の行進くらい暑いものと思われる。有史以来決勝戦まで進んだ球児の平均寿命はひょっとしてかなり短いのではなかろうか。あんな場所で五回も六回も戦って、生命に影響がないとはとても思えない。
ましてや昔(て言うかつい最近まで)は高校野球に限らず日本のスポーツでは練習中、試合中の水分補給も禁止されていた。今思うと虐待である。これが鍛えてある高校生だから何とかなっているが、球児が全員ぽちゃさんだったら日本中で数百、数千単位の死者が出るだろう。まさに地獄。しかも今年は予選の段階から紫外線のみならず放射線も降り注ぐ原子力大国ニッポンである。尋常ならざる過酷な環境と言えよう。ジ・オとキュベレイが同時に自機を狙ってきたようなものである。バトルロイヤルで言うと五人掛かりくらいで無理矢理押さえ込まれる大熊元司。 グラウンドに立っている球児もだが、スタンドも暑い。異常に暑い。 プロ野球を考えると高校野球の観戦(入場)料金は恐ろしいほど低い。私の二十年くらい前の記憶によるとアルプススタンドは三百円で外野席はタダだったはずだ。そんなわけで文明の利器インターネットで平成二十三年時点の入場料を調べてみたらバックネット裏からアルプススタンドまで千六百、千二百、五百円。外野席は相変わらず無料だった。 その為金はないが時間は有り余ってる近所のじいさんばあさんも大量に押し掛けるわけだ。彼らの命に影響はないのだろうか?もっとも、老人が倒れれば多くの若者にお金が回る。経済大国日本を循環させるシステムとして夏の甲子園は有効かも知れない。 かつて東京ドームが出来た時、多くの野球通が「野球は太陽の下で行うもの。ドーム球場は邪道」と訴えた。しかしかつて猛牛と呼ばれ現在のバファローズの球団名の由来にもなった大御所、元巨人、千葉茂はしみじみとこう言った。 「冷房の利いた野球博物館で資料を読み、雨の日も暑い日も寒い日も快適な環境で野球が見られる。ああ、東京ドームっていいなあ」と。 今では私も実に同意見だ。例えば私は長年横浜ベイスターズのファンを続けているが、何でこの炎天下、クソ弱いゴミ球団の試合を野外の横浜スタジアムに見に行かなければならないのか。 「嫌なら見なければいいやないか!」 これはナインティナインの岡村が高岡蒼甫発フジテレビ騒動で発した言葉である。 不自然なまでに法律に護られた一私企業であるフジテレビが公共の電波を好き勝手に使って「嫌なら見なければいい」なんて言い張る資格など全くないわけだが、まあ猿には理解出来ないのだろう。だいたい嫌なら見なければいいだなんて、同じ台詞をスポンサーや電通のお偉いさんの前で言って見ろという話である。業界の先輩である紳助や浜田、とんねるずの前では何も言えないくせに、元ヤクルト・日本ハムの土橋正幸監督に対してかました無礼を私は忘れない。私は粘着質な野球ファンでもある。 とまあ思いっ切り話が病に苦しむ時代遅れの芸人叩きに逸れてしまったが、話を戻すとまさに「嫌だから見たくない」状況に夏の甲子園はあるわけだ。ここら辺公共の電波を使っている民放とは違う。 真夏のぽちゃさんの乳に埋もれて悶死すると言うならまだなんとか納得出来るが、野球で死ねるかよと言う話である。コスモ風に絶叫すると「死ぬかよぉオォ!」。 しかしでは「真夏の甲子園でぽちゃさんの乳に埋もれて悶死」ならどうだろう。さっきは何とか納得出来ると書いたが、やはり、これもちょっと勘弁したい。結局、やっぱり、野球場で熱射地獄に纏われながら過ごすと言うのは大変な事だ。 思うに本来野球は暑さにも寒さにも弱いスポーツである。基本的に温暖地方以外で普及していない。カリブ海では赤道下辺りでもかなり盛んだが、彼らはきっと頭のネジがちょっと外れているのだろう。 じゃサッカーはどうなんだと言うと、サッカーは基本的に冬のスポーツで、北欧やロシア以外はだいたい夏はお休みある。アフリカや中東は一年中暑そうだが、これは涼しい季節がないのだから仕方がない。涼しい季節もないがサッカーの場合金も掛からない。Jリーグはあくまでも例外だろう。 基本的に日本のスポーツは根性主義から発展してきたので真夏でも気合いを見せろと言うのがよくある風景である。高校野球は日本スポーツ界における根性オブ根性、或いはキングオブ根性として歴史を重ねてきており、従って真夏のギラギラと輝く太陽の下命を削りながらプレーするのが我々のよく知る高校野球の常識だ。 今年は長期予想で猛暑と見せかけて実際暑い日々が続いていたと思ったら突然梅雨前線が復活し、なんだ大した事はなかったかなと油断させたところで再び酷暑に叩き込むと言う人でなしの天候が続く。 球児は大丈夫だろうか? いや、男はどうでもいいが野球に興味もないのに嫌々連れて来られたアルプススタンドのぽちゃさんの命が危ない。 これが横浜高校みたいな男子校だったらアルプススタンドの何人が屠られたところで然程の問題はないが、か弱いぽちゃさんはそうもいかない。競馬場みたいにガラスに囲まれたスタンドを特設し、彼女たちを隔離するのも一つの手だろう。 真夏の甲子園で命を野球の神に曝け出した魂がどうなるかは板東英二が証明している。 少なくとも彼らは普通の大人ではない。 愛甲猛から桑田、清原に至るまで、一癖ふた癖では済まない個性の持ち主ばかりだ。 未成年の子供たちが灼熱の太陽の下倒れんばかりに魂を削る姿を老人たちが見守るシュールな文化がそこにはある。健全な娯楽とは言えまい。 しかし瑞々しい。それもまた真実だ。 今年もまた夏の高校野球がクライマックスを迎えようとしている。 私はただ、クーラーの利いた場所で勇者たちの奮闘を心躍らせて見守るだけだ。 真夏の甲子園の、何と残酷で美しい事よ。 高校野球は凄い。つくづくそう思う次第である。
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